風まかせ旅まかせ vol.30 グラキリス成育日誌~出会い

先日、家の近所の園芸店で、見てはいけないモノを見てしまった。

ハンドボール程のまん丸の胴体、上部から空に向かって手のような枝が3本伸びている、その先に3-4cmの小さな葉が10枚ほど申し訳程度についている。どこかで見た記憶がある。どこで見たんだろう…。もっと巨大なモノだったような・…。イエメン、ソマリア、ナミビア…?ああ、マダガスカルだと気が付いた。

マダガスカル島の南西部、イサロだ。一度見たら忘れない、宇宙人を連想させるような独特の容姿。現地ではドラム缶サイズの巨大なものが岩山の中腹やロッジの中庭で、黄梅に似た花を咲かせていた。欲しい!持って帰りたい!と思ったが、国立公園の植物を持ち帰る訳にはいかない。それ以後、その独特な容姿はナミビアのウェルウィッチアやバオバブとともに頭の片隅に残ったまま何十年か経っていた。

植物に付いた札には、『パキポディウム・グラキリス 発根済』とある。店のスタッフに、発根済の意味を訪ねると、マダガスカルから到着した際には根が無い状態で、日本で栽培中に根が出て、日本の環境に適した個体のことを指すそうだ。南半球のマダガスカル、イサロの山岳地帯で採集され、牛車やトラック、飛行機に乗せられ、遠く日本に送られてきたグラキリスと、こんな近所で出会うとは!

店の女性は、「マダガスカル政府の厳重な管理の下で輸出されていますが、現地でも数が減ってきているので何時、輸出禁止になるかわからないです。日本で種から栽培してきたものもありますが、環境のせいか、この子ほど丸くならないんです」。この子、だと…解るような気がした。ずんぐりとした容姿は植物と言うより、動物に近い感情を抱かせる。昔の恋人に出会ったような気分、とはこういう事を言うのだろう。その上、「今日入荷したばかりで、次の入荷がいつになるかわからない」などと言うではないか。これで買わずに帰れる人間がいるだろうか?!長年の恋人なのだ。

訊くと、価格は55,000円!自転車が買えるじゃねぇ~か!と思ったが顔には出さず、ことさら平静を装い、「カード使えますか?」と言ってしまった。
(次号に続く)