グランドサハラ エクスペディション 帰還
(セネガル〜モーリタニア〜西サハラ〜 モロッコ〜ポルトガル〜スペイン)- p14
月風かおり

【北回帰線を越えて〜】
 2/8 朝、このダクラでディルハムに換金する。
寒くなってきた。もう一日中ネックウォーマーが離せない。
空に雲が出てきた。北回帰線(23度−27分)を越えてから今まで雲ひとつなかった空に懐かしいともいえる綿雲が現れ始めた。地球の端が見える穹に雲の厚みを見た。その明るさ、黒さで、雨雲かどうか判断できるのだ。島国日本にいると、この大陸感がない。見たままの自然の摂理は、説明には及ばないのだ。
今日の目的地La^ayoune(エルアイウン)までの500キロに小さな町が一つあるだけで、ひたすら風の強い海岸線を北上することになるだろう。
西サハラのこの千キロに及ぶ海岸線は切り込んだサハラと外海に削られた厳しい地形のため、港となる場所は限られた場所だけなのだ。遠くない昔、対外的に重要となった港はヨーロッパ人の手に落ち、今でもその色を濃く残している。
しかし、我々の進んだルートには、やはり、一陣の砂と、熱砂から守るために硬くターバンを巻いたベルベル系の砂の民がいたし、女性は堀の深い美しい瞳だけを残して、ベールに包まれた神秘的な部族があった。
しかし、それもエルアウインに近づくころには、人やトラックの往来とともに、'街'の人を濃くし、すれ違う車もサハラに向かうバカンスの匂いさえさせていた。
生活一式が積み込んであるだろう頑丈な四駆、バイク組、勇気あるチャリダー、 ヨーロッパからこの快適な道を南下し、気軽にサハラに入るのだから、我々の感覚とはまた違うだろう・・・
 2/9 やはり朝から雨・・当たり前ながら、この灰色の雲が雨を降らせているのだ。何十日と天から水を乞わなかった。
風雨の中、道路の水没、ぬかるみ、寒さ、突風と海岸線の北上はけっこうハードだった。雲はさらに黒く、重くのしかかり、鉛色の海はまるで冬の日本海のようだった。しかし、この寂しい海岸線に忽然と小さなレストランが・・・・ このレストランの存在は猛烈に有難かった。体もかなり冷えていたし、第一、温かい話がしたかったのだ。そこにはうってつけの3姉妹が待っていた。
メニューは、スープ、パン、鯛のから揚げは絶品。
5歳、3歳、1歳・・・くらいだろうか  次々にダイニングに現れ、私たちを楽しませてくれる。この風雨に皆カッパをきて遊んでいるのだ。私は、アルジェリアで少女にあげた残りの紙風船を思い出した。荷物を探り、ふくらませて手渡す。あどけない表情に体が温まってゆくようだ。こんな小さな頃から、サハラの片隅で生き、すさまじい度胸が育ってゆくのだろう、と思うと、惜しみなく愛しさが湧き上がってくるのだった。
モロッコ、Tan Tan(タンタン)の街は海岸から少し内陸に入り、ゆるい登りのワィンディングの先、ヒルトップからワッーと開けた盆地にオアシスの緑と共に美しく広がっていた。この街はヨーロピアンの陸路による西サハラへの中間点でもある。